ボン・ジョヴィ『Slippery When Wet』徹底解剖インフォグラフィック

Slippery When Wet

Bon Jovi

1986年、世界を席巻したモンスターアルバムの全貌

はじめに:時代の象徴

アルバム「Slippery When Wet」のアートワーク

1986年8月18日にリリースされたボン・ジョヴィの3rdアルバム『Slippery When Wet』(日本盤タイトル『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』)。単なる商業的成功を超え、80年代のロックシーン、特にグラムメタルやアリーナ・ロックの潮流を決定づけた画期的な作品です。バンドを国際的スーパースターダムへ押し上げ、その後の音楽シーンに絶大な影響を与えました。このインフォグラフィックでは、制作背景から音楽性、時代背景、そして不朽の遺産まで、その全貌を紐解きます。

世代別注目ポイント:

  • リアルタイム世代 (当時20代~30代): あの熱狂を再び!当時の空気感、サウンドの普遍性、アナログ的な温もりを再発見。
  • 影響世代 (当時~10代、親世代の音楽として): 80’sロックの象徴!現代にも通じるキャッチーさ、歌詞の「エモさ」、ファッションやカルチャーとの繋がり。
  • Z世代 (新たな発見として): 伝説のルーツを探る!サウンドプロダクションの技巧、音楽的革新性、後世への影響力。

輝かしい実績

2800万枚+
全世界売上
全米 No.1
Billboard 200 (8週)
15x
RIAAプラチナ認定
1987年
年間ベストセラー (米)

「You Give Love a Bad Name」「Livin’ on a Prayer」が全米No.1シングルを獲得。ハードロックアルバムとして初の快挙。

アルバムコンセプトとテーマ

音楽的特徴とテーマ性

『Slippery When Wet』は、ハードロックの骨太さとポップスの普遍的な魅力を見事に融合。労働者階級の日常、愛と喪失、若者の反抗と自由、そして仲間意識といったテーマが、キャッチーなメロディとパワフルな演奏に乗せて歌われます。

  • サウンド: ラジオフレンドリーなプロダクション、スタジアムを揺るがすアンセム、記憶に残るギターリフとキーボード。
  • 歌詞: 共感を呼ぶストーリーテリング、ストレートな感情表現、ノスタルジックな情景描写。
  • ターゲット: 幅広い層にアピールし、特に女性ファンを大きく拡大。

全曲徹底レビュー

1. Let It Rock (5:25)

デヴィッド・ブライアンによるジョン・ロード風の荘厳なオルガン・イントロから始まり、パワーコードを駆使したヘヴィなリフへと移行 [cite: 5]。サンボラはパーカッシブな質感を加えるためにパームミュートを効果的に使用 [cite: 16]。アルバムのオープニングを飾り、スタジアムロックの高揚感を醸し出し、「ロックしようぜ、楽しもうぜ」という直接的なメッセージでアルバム全体のトーンを設定します [cite: 5, 10]。

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2. You Give Love a Bad Name (3:43)

キャッチーなアカペラの導入部から、バンド全体が一体となったパワフルなコーラスへと展開 [cite: 2]。キーはCマイナーで、エネルギッシュかつエッジの効いた雰囲気 [cite: 2]。裏切りと失恋を伴う有害な関係を描き、バンドにとって初の全米No.1シングルとなりました [cite: 2]。元々はボニー・タイラーのために書かれた曲の改作です [cite: 6]。

3. Livin’ on a Prayer (4:09)

ヒュー・マクドナルドによる象徴的なベースラインとリッチー・サンボラによるトークボックスの使用が特徴的な、バンドの代表曲 [cite: 2]。トミーとジーナという労働者階級のカップルが困難に立ち向かう物語は多くの共感を呼びました [cite: 2]。ジョンは当初この曲を気に入らなかったものの、サンボラとデズモンド・チャイルドがヒットを確信し説得したという逸話があります [cite: 2]。

4. Social Disease (4:18)

アップテンポな楽曲で、ギャロップするリズムとミクソリディアン・モードのスリージーなブルースロックリフで始まります [cite: 16]。ブルース・フェアバーンによるホーン・セクションもフィーチャー [cite: 2]。「愛は社会病」というタイトルが示す通り、愛や人間関係の複雑さを皮肉っぽく描いていると解釈できます [cite: 5]。エアロスミスが欲しがったというエピソードも [cite: 2]。

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5. Wanted Dead or Alive (5:09)

リッチー・サンボラによる12弦アコースティックギターの象徴的なリフとジョン・ボン・ジョヴィの情感豊かなヴォーカルが特徴のロックバラード [cite: 2]。ロックバンドのツアー生活を、西部開拓時代の無法者の生き様に重ね合わせています [cite: 2]。ボブ・シーガーの「Turn the Page」にインスパイアされたと言われ、アルバムの初期タイトル候補でもありました [cite: 6]。

6. Raise Your Hands (4:17)

パワーコードとパームミュートを駆使したドライヴ感のあるリズムが特徴のエネルギッシュなアンセム [cite: 16]。ライブでの一体感を促す内容で、「ショーに来て、手を挙げて、ワイルドになろう」という直接的なメッセージが込められています [cite: 5]。Slippery When Wetツアーの象徴的な曲であり、観客とのコールアンドレスポンスで会場を盛り上げました [cite: 48]。

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7. Without Love (3:31)

クリーンでアルペジオを主体としたエレクトリックギターのイントロで始まるミッドテンポのパワーバラード [cite: 16]。愛の不在、失恋、あるいは愛の必要性を歌った、内省的で感情的な内容です [cite: 4]。デズモンド・チャイルドとの共作で、アルバムの中ではヒット曲に隠れた佳曲として評価する声もあります [cite: 9]。

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8. I’d Die for You (4:30)

アグレッシブなパームミュートリフで始まる、パワフルでドライヴ感のあるロックソング [cite: 16]。愛する人のためなら死をも厭わないという、献身的で情熱的な愛を歌っています [cite: 4]。キーボードが非常に目立っており [cite: 39]、長年にわたりコンサートで2曲目に演奏されることが定番化していたファン人気の高い曲です [cite: 48]。

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9. Never Say Goodbye (4:49)

クリーンでアルペジオを主体としたエレクトリックギターのイントロで始まる、心温まるバラード [cite: 16]。若き恋人たちの関係と、共にあり続けたいという願いを描いたノスタルジックなテーマを持ちます [cite: 10]。ボン・ジョヴィにとって初の本格的なバラードであり、その後のアルバムでパワーバラードを収録する流れを作りました [cite: 60]。

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10. Wild in the Streets (3:56)

アルバムの最後を飾るこの曲は、60年代ロックの雰囲気を持つアップビートでアンセム的なロックソング [cite: 16]。ノスタルジア、若さ、仲間意識、そして「ここには名誉の掟がある。誰も倒れない」といった一種の「掟」を歌っています [cite: 10]。日本盤アルバムのタイトル『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』はこの曲名から取られました [cite: 1]。

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サウンドプロダクション:錬金術の秘密

80’sビッグサウンドの創造

プロデューサーのブルース・フェアバーンとエンジニア/ミキサーのボブ・ロックの手腕が光る。彼らはカナダのリトル・マウンテン・サウンド・スタジオで、バンドの生々しいエネルギーとメインストリーム受けする洗練されたサウンドを見事に両立させた。

  • クリア&パワフル: 各楽器の音がクリアに分離し、それぞれが持つ力を最大限に引き出すミキシング。ラジオでのオンエアを意識したキャッチーな音作り。
  • ダイナミックレンジ: 静と動のコントラストを活かし、楽曲のドラマ性を高めるダイナミックなサウンドスケープ。
  • 機材と技術: 当時の最先端スタジオ機材(SSL卓、UREIコンプ等)とアナログの温かみを活かしつつ、モダンなロックサウンドを構築。リッチー・サンボラの多彩なギターサウンド(トークボックス、12弦、各種エフェクト)やデヴィッド・ブライアンのキーボードがサウンドに厚みと彩りを加えた。
  • デズモンド・チャイルド: ヒットメーカー、デズモンド・チャイルドとの共作により、楽曲のメロディと構成がさらに洗練された。

これらの要素が融合し、80年代を象徴する「ビッグなサウンド」が完成。単なるヘヴィメタルではなく、より幅広い層にアピールする普遍的なロックサウンドへと昇華させた。

アートワーク:論争と象徴性

『Slippery When Wet』最終版アートワーク

アルバムのアートワークは紆余曲折を経て決定された。当初は「Wanted Dead or Alive」のタイトルでカウボーイ姿のメンバー写真が検討されたが、タイトル変更後に濡れTシャツの女性をフィーチャーしたセクシーな案(日本盤などで採用)が登場。しかし、PMRC(ペアレンツ・ミュージック・リソース・センター)などからの性差別的との批判を恐れたレコード会社の意向で、最終的にジョン・ボン・ジョヴィ自身が提案した「濡れたゴミ袋に指でタイトルを書いた」デザインに落ち着いた。このシンプルながら挑発的なアートワークは、アルバムの持つ生々しいエネルギーと反骨精神を象徴しているとも言える。

よくある質問 (FAQ)

Q1: このアルバムの成功の秘訣は?

A: キャッチーな楽曲、ラジオフレンドリーなプロダクション、MTVでの効果的な露出、ジョン・ボン・ジョヴィのカリスマ性、そして時代の空気を捉えた普遍的なテーマ性が複合的に作用した結果です。

Q2: 「Livin’ on a Prayer」のトミーとジーナは実在する?

A: 特定の実在の人物ではありませんが、当時のレーガン政権下の経済状況に苦しむ労働者階級のカップルを象徴的に描いたキャラクターです。

Q3: アートワークが複数あるのはなぜ?

A: 当初のセクシーなアートワークが検閲団体からの批判を懸念されたため、より当たり障りのないデザインに変更されました。しかし、日本など一部の国では初期案が採用されました。

Q4: バンドメンバーの貢献で特筆すべき点は?

A: ジョンのヴォーカルとリーダーシップ、リッチー・サンボラの多彩なギターワークとソングライティング、デヴィッド・ブライアンのキーボードによるサウンドの厚み、ティコ・トーレスの堅実なドラミング、そして(クレジット外ながら)ヒュー・マクドナルドのベースラインがアルバムのサウンドを支えました。

Q5: アルバムタイトル『Slippery When Wet』の由来は?

A: バンドがカナダ・バンクーバーのストリップクラブ「The No. 5 Orange」を訪れた際、ステージ上でストリッパーがシャワーを浴びながら石鹸で体を洗うパフォーマンスを見て、この挑発的なタイトルが生まれたと言われています。

Q6: 未発表曲「Edge of a Broken Heart」とはどんな曲?

A: 『Slippery When Wet』のセッション中に書かれたものの、最終的なアルバムには収録されなかった楽曲です。ファンの間では特に名高い存在で、ジョン・ボン・ジョヴィ自身も後にこの決定を後悔していると述べています。この曲は1987年の映画『Disorderlies』のサウンドトラックに収録された後、シングルB面やベスト盤にも収録されました。

トリビア:知られざるエピソード

あの名曲、この裏話

  • ジョンは当初「Livin’ on a Prayer」を気に入らず、アルバム収録に消極的だったが、リッチー・サンボラとデズモンド・チャイルドがヒットを確信し説得した。
  • 「You Give Love a Bad Name」は元々ボニー・タイラーのために書かれた「If You Were a Woman (And I Was a Man)」という曲で、歌詞も異なっていた。
  • 未収録曲「Edge of a Broken Heart」は映画『Disorderlies』のサントラに収録され、ファンに人気が高い。ジョンも後に未収録を後悔。
  • アルバムタイトルは、バンクーバーのストリップクラブで見たパフォーマンスから着想を得た。
  • 「Livin’ on a Prayer」などのベースパートの多くは、公式メンバーのアレック・ジョン・サッチではなく、ヒュー・マクドナルドが演奏したと広く報じられている。
  • アルバム制作のために約30曲が作曲され、その多くがデモ音源として存在している。
  • 「Livin’ on a Prayer」のオリジナルデモは、象徴的なベースラインやトークボックスが加わる前のもので、ザ・クラッシュのようなサウンドだったとジョンは評している。
  • 『Slippery When Wet』ツアー中、ジョン・ボン・ジョヴィは深刻な声帯疲労に見舞われ、コルチゾン治療を必要とした。
  • バンドが『Slippery When Wet』の全米No.1獲得の報を受けたのは、サウスダコタ州スーフォールズで.38スペシャルの前座を務めている最中だった。

後世への影響と評価

『Slippery When Wet』は、80年代後半の音楽シーンに巨大な足跡を残した。グラムメタルをメインストリームに押し上げ、アリーナ・ロックの新たなスタンダードを確立。その影響は同時代のバンドに留まらず、後進の多くのロックミュージシャンにも及んでいる。

影響を受けた/同じ潮流で成功したバンド (例)

  • Poison: キャッチーなメロディと華やかなルックスで人気を博した。
  • Warrant: メロディアスなハードロックとパワーバラードで成功。
  • Skid Row: よりヘヴィなサウンドながら、ボン・ジョヴィの成功が切り開いた市場で活躍。
  • Cinderella: ブルージーな要素を持つハードロックで独自の地位を築いた。
  • Europe: 「The Final Countdown」など、キーボードを多用したメロディックなハードロックで世界的に成功。

これらのバンドは、ボン・ジョヴィが作り上げたメロディックで商業的に成功しやすいハードロックの土壌の上で、それぞれの個性を発揮したと言えるでしょう。

リリース当時は爆発的な人気と商業的成功を収めた一方、批評家からは商業主義的との声も。しかし時を経て、ロック史における重要性が再評価されている。

アルバム基本情報

アルバムタイトルSlippery When Wet
日本盤タイトルワイルド・イン・ザ・ストリーツ
アーティスト名Bon Jovi
リリース日1986年8月18日
ジャンルHard Rock, Glam Metal, Arena Rock
レーベルMercury Records (PolyGram)
プロデューサーBruce Fairbairn
収録曲 (全10曲)
1. Let It Rock5:25
2. You Give Love a Bad Name3:43
3. Livin’ on a Prayer4:09
4. Social Disease4:18
5. Wanted Dead or Alive5:09
6. Raise Your Hands4:17
7. Without Love3:31
8. I’d Die for You4:30
9. Never Say Goodbye4:49
10. Wild in the Streets3:56

結論:時代を超えたアンセムの創造

『Slippery When Wet』は、単なるヒットアルバムを超え、80年代という時代を象徴する文化的現象となりました。キャッチーなメロディ、力強いパフォーマンス、共感を呼ぶ歌詞、そして巧みなプロダクションが融合し、世代を超えて愛される不朽のアンセム群を生み出しました。

このアルバムは、ハードロックをより多くの人々に届け、その後のロックシーンの潮流を大きく変えました。今聴いても色褪せないその輝きは、ボン・ジョヴィが音楽史に刻んだ偉大な功績の証です。

By kyushutv

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