日本の怪談の中でも、特に有名で恐ろしい物語「耳なし芳一(みみなしほういち)」。
盲目の琵琶法師が、平家の亡霊に魅入られ、その両耳を奪われてしまう……。誰もが一度は聞いたことのあるこの物語の舞台が、山口県下関市にあることをご存知でしょうか?
その場所とは、竜宮城のような美しい門で知られる「赤間神宮(あかまじんぐう)」。
源平合戦最後の地・壇ノ浦を望むこの神社には、芳一を祀る「芳一堂」があり、今も多くの参拝者が訪れています。
今回は、悲劇の歴史と怪談が交差するミステリアスなスポット、赤間神宮と芳一伝説の謎に迫ります。
👻 亡霊を泣かせた琵琶の音色。芳一の悲劇
物語の主人公・芳一は、赤間神宮の前身である「阿弥陀寺」に住んでいた盲目の琵琶法師でした。
彼は琵琶の弾き語りの名手として評判で、毎晩のように「平家物語」を語り、琵琶を奏でていました。
謎の人物からの招待
ある夜、芳一のもとに謎の人物が現れ、高貴な方への演奏を依頼します。
連れて行かれた先で、芳一は渾身の演奏を披露。そのあまりに美しく悲しい音色は、集まった人々を涙させました。
しかし、彼が演奏していた相手は、この世の者ではありませんでした。
そこは、壇ノ浦の戦いで滅亡した平家一門の亡霊たちの宴の席だったのです。
奪われた両耳
亡霊たちは芳一の琵琶に魅了され、彼を自らの世界(冥府)へと引きずり込もうとします。
異変に気づいた和尚が芳一の全身にお経を書き魔除けを行いましたが、唯一「耳」にだけ書き忘れてしまいました。
その結果、芳一は亡霊に両耳をもぎ取られてしまうのです。
🌊 壇ノ浦の戦いと平家の怨念
なぜ、この場所で怪談が生まれたのでしょうか?
それは、目の前に広がる関門海峡が、源平合戦のクライマックス「壇ノ浦の戦い」の舞台だからです。
この戦いで、平家一門は源氏軍に敗れ、幼い安徳天皇と共に海へと沈み滅亡しました。
赤間神宮は、その入水した安徳天皇を祀る神社。
「平家物語」は、この悲劇的な戦いの記憶と、無念の死を遂げた平家一門の怨念を語り継ぐ物語であり、芳一伝説はその怨念を象徴するエピソードとして現代に伝わっています。
📚 小泉八雲が描いた「死と生の境界線」
この伝説を世界に広めたのが、日本文化を愛したイギリス人作家、**小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)**です。
彼の著書『怪談』の中で紹介された「耳なし芳一」は、単なる怖い話ではなく、人間の業の深さや、死者と生者の境界線を描いた文学作品として高く評価されています。
琵琶は古来より、死者を呼び覚ます力を持つ楽器と信じられてきました。
芳一の奏でる音色は、海底に眠る平家の魂を呼び起こし、現世へと導いてしまったのかもしれません。
ℹ️ 基本情報&アクセス
赤間神宮の境内には、芳一の木像が祀られた「芳一堂」があります。
静かに手を合わせ、琵琶の音色に耳を澄ませてみてはいかがでしょうか。
| 項目 | 内容 |
| スポット名 | 赤間神宮(芳一堂) |
| 所在地 | 山口県下関市阿弥陀寺町4-1 |
| お問い合わせ | 083-231-4138(赤間神宮) |
🚗 アクセス
- 【バス】
- JR「下関駅」からバスで約9分、「赤間神宮前」下車、徒歩すぐ
💖 まとめ
美しい朱色の神社に秘められた、悲しくも恐ろしい怪談の物語。
現地を訪れれば、潮騒の向こうから、芳一の琵琶の音が聞こえてくるような気がします。
下関観光の際は、歴史と伝説が息づく赤間神宮で、少し背筋が凍るような歴史ロマンに浸ってみませんか?